最強の記憶とは何か

 記憶とは何か。
 記憶力がよい、記憶力を高めるとは具体的にどういうことか考えてみよう。

 記憶するとは、「取り組む」「とどめる」「引き出す」の3段階から成り立っている。
 「取り組む」とは、目や耳から情報が入ることだ。
 「とどめる」とは、頭の中に入力された文字や形、音を保持することだ。
 「引き出す」とは、頭の中に入力された文字、形、音を意識して取り出して、発音したり、手で書いてみることだ。

 「記憶力がよい」とは、取り組んだものを長くとどめることができることだ。
 「記憶力を高める」ということは、より正確にとどめることができるようにトレーニングすることだ。

 脳の中はニューロン(神経細胞)があり、それぞれのニューロンはシナプスでつながっている。

 脳の中の100億個以上あるニューロン同士がいくつものシナプスでつながったネットワークで構成され、このつながり方が記憶に関係していることがわかっている。

 ニューロンから微弱な電流が他のシナプスに伝達される。
 電流が強いとニューロンを結ぶシナプスも太くなり情報伝達がよりスムーズにいくようになる。
 強い印象や繰り返しによってシナプスも太くなる。

 でも、記憶力がよければ人生すべてうまくいくというものではない。
 生きていく上で、忘れてしまいたいことはたくさんある。
 大きな失恋や身近な人の死をいつまでも昨日のことのように覚えていると、生きるのがつらくなる。

 だから人間は忘れるようにできている。
 脳は、記憶を薄れさせる役割もこなしている。

 一度取り込んだだけでは、しばらくすると忘れてしまう。
 それは、記憶が悪いことではなく、生きるために忘れるようになっているのだ。
 長くとどめようと思うのなら繰り返すしかない。

 新聞を読んだ後、内容を思い出してみる。
 テレビを見た後、出演者を思い出してみる。
 名刺交換をした相手の肩書きや名前を後で思い出してみる。

 何か情報を頭に入れた後は、それを思い出す習慣をつけると、忘れまいと思ったものは記憶として定着しやすくなる。

 たとえ思い出せなくても苦にすることはない。
 新聞、番組表、もらった名刺を取り出して反復して覚えればいいことだ。


 呼吸法のメカニズムを理解し腹式呼吸を意識して実践していると呼吸が楽になる。
 同じように記憶のメカニズムを理解して、右脳を鍛え意識して記憶するように心がけると、記憶も勉強もラクになる。


【1】海馬は記憶の門番

 私たちは、視覚、聴覚、臭覚、触覚など外部から様々な刺激を受けながら生活している。
 今もあなたの目はパソコンに向いている。
 耳には同僚の話し声あるいはオーディオから流れてくる音楽が聞こえているかもしれない。
 肩が凝っていたり、目がしょぼしょぼしたり、今現在もいろいろな感覚を覚えているはずだ。

 これらの感覚はすべて脳に到達する。
 このメルマガの文字は大脳皮質の後頭部(後頭葉)に伝わっている。
 音は大脳皮質の両サイド(側頭葉)に届いている。
 それぞれの脳神経細胞(ニューロン)を刺激しているはずだ。

 視覚、聴覚、臭覚、触覚などの情報は一度、「海馬(かいば)」を通るようになっている。
 海馬はいわば脳に入る前の門番の役割を果たしている。
 あなたの身の回りで起きていることをすべてをそのまま素通りさせるわけではない。
 もし、すべてを素通りさせていれば、ものすごい情報が一度に脳のあちこちに届くことになり、頭はパニックになってしまう。
 そうならないよう海馬が重要な情報かそうでないか「交通整理」をしてくれているのだ。

 たとえば、「dog」という単語を目にしたとする。
 まだ英語を習い立てで「dog」という単語の意味を知らないとしよう。
 海馬は「dog」を受け取り、前頭葉に「知ってる?」と問い合わせをする。
 前頭葉は側頭葉の中を調べてみるが見あたらないので、海馬に「知らない」と答え、とりあず「dog=犬」という情報を側頭葉に保管することにする。

 《海馬》⇒《前頭葉》⇒《側頭葉》

 海馬は揮発性メモリのようなもので、時間がたつと記憶は跡形もなく消えてしまう。
 メモを持たないまま電話番号を聞いたり、注文を聞いたりしたとき、しばらくは頭に残るが、ほかのことを考えたり、時間がたつと消えてしまう記憶がこの海馬による記憶である。
 海馬の記憶はすぐになくなるが、前頭葉を通して側頭葉にコピーされた記憶はすぐにはなくならない。
 しかし、側頭葉の記憶も、そのままほったらかしにされたら、自然に消えてしまい復活が困難となる。
 側頭葉の記憶を消えないように定着させるには、何度か繰り返さなければならない。

 ただ、問題は、まだ海馬に記憶が残った状態で復唱したとしても、海馬から「まだ覚えているよ」と門前払いされて側頭葉には届かないのである。つまり、一定の間を置かないと復習は効果が出ないのである。
 といって、間を置きすぎても、側頭葉から跡形もないくらい消えてしまっていたら、これもまた効果が望めないのである。

 繰り返し学習は大切であるが、タイミングが早すぎてもいけない。遅すぎてもいけない。



【2】分散学習

 「これは重要な情報だから前頭葉君、しっかり側頭葉に残してほしい」と
お願いしても、なかなか言うとおりにはしてくれない。

 死ぬような目にあったり、宝くじが当たったり、わかりやすい記憶でないと前頭葉君は重要な情報と受け取ってくれない。
 だから、何回か繰り返し学習で、前頭葉君に側頭葉に覚えているかどうか問い合わせをしてもらい、記憶を強めていくしかない。

 ドイツの心理学者エビングハウスは時間の経過とともに記憶がどれくらい忘れられていくか実験して、「エビングハウスの忘却曲線」を発表した。意味のないアルファベット3文字をいくつも憶え、時間とともに記憶がどれくらい減っていくか曲線で表した。4時間もすると半減し、1週間後には8割以上も忘れてしまうことがわかった。

 できれば、暗記ものは就寝前に学習する方がよい。
 寝ることで忘却曲線がなだらかになるからである。
 曲線が半分以下にならない頃に再度復習すると、記憶量の値はぐっと増え、また新しい忘却曲線がはじまる。だんだん、曲線はなだらかになり、次に復唱するまでの時間が長くなる。これを何度か繰り返すうちに記憶はしっかり定着する。

 記憶を伴う勉強は、一度に何もかも詰め込むのではなく、分散させながら、繰り返すと、効率的に憶えることができるようになる。



【3】メタ認識

「メタ」とは認知心理学の言葉で、自分をもっと上から見ている自分というような意味だ。
 ゴルフのスイングをする。右にスライスする。次にスイングするときは自分を上から見下ろすように意識してスライスしないように矯正することになる。これがメタ認識である。「客体としての自分」という難しい言い方をする人もいる。

 教育現場でも「メタ認識」が応用されている。
 記憶しているか記憶していないかできるだけ正確に判断して、記憶していないことがわかったらもう一度復習するように自分をコントロールする。これが「メタ認識」である。

 記憶のため復習する自分と、それをマネジメントするもう1人の自分がいれば、こんなに心強いことはない。

 やみくもに勉強しても能率は上がらない。
 ときには、休んだり、脳を活性化するためのトレーニングを間にはげんだり、音楽や絵画を見て右脳を刺激したり、気分を変えるために場所を移動するなど自らマネジメントして環境を変えていくことが大切だ。

 右脳と左脳を同時につかって、効率よく憶えることもマネジメントのひとつだ。
 速読にしても、記憶にしても、右脳を使うことを知らずに「記憶力がないから」「頭が悪いから」と自ら限界をつくっている人がいる。

 ネガティブな考えでは本当の力が発揮されないままに終わってしまう。
 「メタ認識」の自分をつくりあげ、自分の能力を信じることが何よりも大事である。


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