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著者の谷原誠さんは企業法務、事業再生、交通事故、不動産問題などについて卓越した「交渉力」をもって解決に導く弁護士で、「思いどおりに他人を動かす交渉・説得の技術」、「他人を意のままにあやつる方法」など著書多数。最近では「報道ステーション」、「スーパーチャンネル」などのテレビ番組でも活躍している。
今では現役のネゴシエーターとして活躍する谷原さんであるが、幼少時代は体が小さく、気も弱く、いじめられっ子であったという。
大学になってもコミュニケーション能力が欠け、まさか自分が交渉人になるとは夢にも思わなかったそうだ。
ところが、司法試験の勉強を通じて論理思考力を鍛え、議論の方法を徹底的に学ぶうちに口げんかにめっぽう強くなる。
23歳で司法試験に合格、25歳で弁護士になる。
論理思考力を用いて、相手を完膚なきまでに叩きのめすことができるのだが、ひとつも交渉がまとまらないジレンマに苦しむことになる。
相手をやりこめれば結果は悪い方向になるばかり。
判決で勝っても、必ず控訴され、解決までに時間がかかり、依頼人を満足させる額を引き出すことができないことが何度もあった。
そこで、ハーバード流交渉術を学び、感情論にならずに、問題と利害に集中して解決に当たることにした。
しかし、実践では役に立たなかった。
紛争の当事者は殺気立っており、こちらが理性的に話しても耳を貸してくれないからだ。
それでも谷原弁護士はあきらめることなく、どうしたら交渉でいい結果を引き出すことができるか研究に励んだ。
そして、自分がテクニックばかりに走っていて、人間の本質を見誤っていたことに気づく。
そこから生み出されたのが「気弱な人でもでき、いつの間にか勝っている交渉術」である。
人間は感情の生き物だ。
まずは感情があり、理由はあとから考える。
イソップ物語の「腐ったブドウ」に出てくる話をご存じであろうか。
キツネが美味しそうなブドウを取って食べようするがどうやっても背が届かない。
キツネは「どうせあのブドウは腐っているのさ」と吐き捨ててその場を去る。
私たちの生活でも似たようなことはたくさんある。
理性で納得しようとはしない。だからこそ感情と理性のバランスが必要なのだ。
相手に合わせるソフト型交渉では相手の言いなりなってしまう。
相手を打ち負かすハード型交渉では相手の感情を高ぶらせ泥沼にはまる。
理性に訴えるハーバード交渉術は、もともと理性的でない相手に通用しない。
だから感情と理性の両方に気を配り、「相手の感情を動かす」交渉が必要なのだ。
そこまで考えが至り、谷口弁護士は気づく。
「この方法は『気弱さ』が武器になる」
「優しい言葉で相手を征服することができないような人は
いかつい言葉でも征服できない」
チェーホフ(ロシアの小説家)
気弱さが交渉の武器になる。
でも、それは善人タイプでも平和主義でもない。
あるいは、人の言うことをすぐ信じる「子ども」タイプでも感情豊かなタイプでもない。
善人であれば、結局損を引き受けることになる。
相手が有利になることを考えてしまうからだ。
自分が善人タイプと思うのであれば、けっして相手の有利になることを言わないように心がけることだ。そして、自分の要求を表明するように努める。
平和主義であれば、対立を回避することに気を取られ要求を通してしまうおそれがある。
交渉の目的を忘れないようにすることが肝心だ。
人の言うことをすぐ信じる「子ども」タイプは人間的には素晴らしいが、交渉の席ではコントロールされやすくなる。
相手の言うことがすべて真実とは限らないと思うことだ。
疑うことに抵抗があれば、事実を検証するという態度を忘れないようにする。
すぐに感情的になるタイプは冷静を失いそうになったら10を数えるようにする。
相手と協力関係を築き、見事乗り切ったときの喜びまで感情は心に仕舞っておくようにする。
勝ち負けという考えを捨てよう。
強引に売り込んでも顧客は二度とあなたから買おうと思わないであろう。
相手の要求にできるだけ沿うようにして売ったとき利益は減るかもしれないが、顧客はあなたのファンになり、口コミであなたのサービスが他の人にも伝わり、結果的には大きな収入を得ることになる。
交渉において勝ち負けは不要だ。
双方が満足するように心がけよう。
別の言い方をすれば、気弱だからこそ勝ち負けにとらわれない交渉ができる。
自分から譲歩したくないというようなプライドはすぐに捨てる。
折れてトクした方がいい。
交渉相手にもプライドがある。相手のプライドを通してあげるかわりに、こちらは要求を通すようにしよう。それこそ気弱な人でなければできない芸当ということもできる。
交渉の場において力関係は重要だ。
例えば、不動産賃貸契約の場において、ライバル物件が他になければ当然貸し主が強い。
ライバル物件があれば、条件が気に入らなければ別の物件に当たることができるから当然借り主が強い。
貸した後には、借地借家法で一般的に借り主が強くなる。
しかし、借り主がいったん滞納したら、契約解除の要件を満たすことから途端に貸し主が強くなる。
交渉においては法関係のほか、時の運というのもある。
交渉において、双方の力関係を見極めなければならない。
交渉にあたっては相手の話を注意深く聞くことからはじめよう。
相手が言いたいことを言い切る状態までこちらは待たなければいけない。
聞き終わった後、相手の話の要点をこちらでまとめ、ほかに言いたいことはないか聞くとなおよい。
「賢者は聞き、愚者は語る」 ソロモン(イスラエルの王)
聞くとき、次の5つの情報を聞き出すことができれば交渉は有利になる。
1相手のニーズ 相手がのぞむものは、早い納期なのか、価格の引き
下げなのか、それともほかの何かか。
2強みと弱み 相手の強みは無視し、弱みを攻撃することで交渉は
有利に進めることができる
3相手の期限 こちらの期限は相手より遅く設定してのぞみ、期限
ぎりぎりまで粘って相手から譲歩を引き出す
4相手の限界値 いちはやく相手の限界値にもっていく、交渉を終結
させることができる。
3と4は逆に知られたら交渉がつらくなる。
知られたときは、上司とかけあって期限や限界値を変えることだ。
そして、相手が期限を迫って攻めてきても、限界値で迫っても、平然としていれば、逆に相手があせりだす。
以上、かなり端折って説明してきたが、それでも項目は半分も満たしていない。
また、本書では豊富な実例を使って説明してあり、わかりやすく、かつ、習得しやすい。
ぜひ、実際に購入されて読まれることをお薦めします。
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