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私たち消費者はいつもかしこい選択で買い物をしているつもりだ。
でも、実際はトリックや心理作戦にやられて損な買い物をしていることが多い。
それは学校の成績や社会の地位に関係なく誰もが繰り返す失敗である。
どうしてそういう失敗をしてしまうのか、その原因を知ることは賢い消費者になるためにも、営業で儲かるためにもとても有意義なことだ。
そこには従来の経済学が説く合理的な経済人は登場しない。
ダイエットをしないといけないのに、パンにクリームをたっぷり塗ってしまうのは、それが人間だからだ。
経済学はもっと人間的で面白い学問である。
合理的な行動をとる人間なんてこの世にめったにいるものではない。
私たち普通の人間が経済の主役である。
人間的な、あまりにも人間的な私たちを中心に見据えることで経済学を再構築したものが行動経済学であり、本書はその入門書である。
ちなみにこの本の訳者の泉典子さんは経済学についてはまったくの門外漢である。
だからこそ、とても庶民感覚で読みやすくて面白い。
問1 どちらを選びますか。
A 3万円が確実に儲かる
B 15万円が儲かる確率は25%、まったく儲からない確率は75%
問2 どちらを選びますか。
A 10万円を確実に損する
B 15万円を損する確率が75%、損をしない確率が25%
答えに迷った人もいるはずだ。
統計的には
問1でAを選んだ人は85%、Bを選んだ人は15%
問2でAを選んだ人は13%、Bを選んだ人は87%
であったそうだ。
冷静に計算すればどちらの回答率も矛盾していることがわかる。
しかし、答えるのは人間だ。
これを「感情の経済学」と呼ぶ。
問1 今日はオペラを観に行こうとして入り口に近づいたところ2万円の
チケットをなくしたことに気づく。あなたは窓口でもう一度チケッ
トを買い直しますか。
問2 今日はオペラを見に行こうと思った。チケットは窓口で買うつも
りだ。ところがチケット用にと上着のポケットに入れてあった
2万円を落としたことに気づく。あなたはチケットを買いますか。
結果的には同じコトなのだが、問1の場合は買い直さない場合が多く、
問2の場合は、それでも買う場合が多いそうだ。
問1の場合、すでに娯楽のための支出は2万円と決めていたのに、その2万円のチケットをなくしたことから、支出の打ち止めとなった。
問2の場合、なくしたお金2万円にはまだ使い道が決まっていなかった。
いわゆる名目なしの2万円だ。娯楽のための支出は財布から出す2万円で予算のオーバーではない。だからチケットを買う気になるのだ。
このようにお金には色がついているのだ。
あるグループの人々がデジタルカメラを買うことになる。
選べるモデルは2つ。3万8千円と7万6千円の2つ。
それぞれの機能を見比べたとき値段の設定は妥当に思える。
この場合、グループの中の半分は3万8千円を選び、残り半分は7万6千円の製品を選ぶという。
次に、さらに上級クラスの12万8千円のモデルが追加され、選べる機種は3種類となった。
すると不思議なことが起きる。3万8千円の機種を選ぶ人は7万6千円の機種を選ぶ人より減ってしまうのだ。
上級の12万8千円の機種を選んだ人は別として、残りの2つの機種は人気度が同じであったはずなのこの結果だ。
このことから次の教訓が導き出される。
寿司屋のメニューで「上」をたくさん出したければ、構成を次のようにする。
特上6000円
上 5000円
中 4000円
選ぶというのは微妙な心理状態が働くものだ。
デジタルカメラがほしいと思って電気屋さんに行くとしよう。
いろいろなメーカーからたくさんの種類の製品が陳列されて、機能もいろいろ値段もいろいろでどれを選んでよいか迷ってしまう。結局、選ぶことに疲れて、何も買わずに帰るということも起こりえる。選択肢を増やしすぎると迷いと葛藤を生じさせ、買わないとかまた今度にするという選択も許してしまうのだ。
焼き魚定食を食べるつもりで食堂に入る。
今日の日替わりメニューにショウガ焼き定食とあり、他の定食より安かったので「日替わり一つ!」と頼んでしまう。
行動ファイナンス理論で「選好の逆転」という。
早い話が、目先の欲に目がくらみ、将来の利益に目がいかないことだ。
健康に害があと知りつつ目先のタバコの一服がやめられないとか、
ダイエットしているはずなのにケーキをほおばっているというような現象をいう。
自動車のディーラーは新車を売るとき、それを買おうとしている人が「新車の値段」より「自分の現在の車がどれだけ高く売れるか」ということに強い関心があることを知っている。
だから車を高い値段で引き取ってくれると思わせることで商談を成功させる。
これを「保有効果」という。
人間は一度手に入れたものに高い価値を感じる傾向がある。
あるものを得ることによる効用より、いま持っているものを失うことによる痛みの方が大きいのだ。
ある有名なスポーツ用品のメーカーが「革新的なスピード」を実現する水着を開発しているとする。プロジェクトはすでに80%まで進んでいる。ここまでの投資額は10億円。
ところが、外国のメーカーがスピード水着の製品化に成功して売りに出してしまった。これから残り20%の行程に新たに投資して国産スピード水着を完成させても外国水着の性能には追いつかないとする。この国内メーカーはさらに開発を進めるだろうか。
こういう場合、開発を進めるケースが多い。
なぜなら、先行投資(サンクスコスト)が馬鹿にならないからだ。
これを「コンコルドの誤謬」という。
実際、超音速旅客機コンコルドを開発中に、これを完成させても採算が取れないことが明らかになったのに、これまでの開発費があまりに莫大であったために完成まで突っ走って巨額の赤字を出したことあるからだ。
わが国の大型公共工事でも思い当たるような事件があった。
アメリカの小児保健協会の調査で次のような結果が出た。
わかりやすくいうと次のような話だ。
小児科医のA先生がまだ扁桃腺を除去していない11歳の子ども400人の診察をしてそのうち45%の子どもについては除去手術が必要であることを指示した。
A先生が手術の必要なしと判断した残りの子どもたちについて、B先生がそのことを知らされずに診察したところ、46%の子どもについて手術が必要であると指示した。
さらにC先生が、A先生もB先生も手術の必要なしと判断した子どもたちを診察したところ、44%の子どもについて手術を勧めたという。
なぜそのような結果になったかというと、扁桃腺を持った子供の約50%は手術が必要といわれていたことが判断のバイアスとなったからだ。
これを「アンカリング効果」という。
船がアンカー(いかり)をおろすと、その範囲しか船は動けなくなる。
つまり、最初に受けた印象が、その後の判断に影響を及ぼすことをいう。
単に7000円の値札より、1万円という値をわざわざ見えるように消して7000円とした方がお買い得に見えるのも「アンカリング効果」をねらったものだ。
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