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   「林住期」
               五木寛之 幻冬舎(2007.2.22第1刷 7.5第22刷)
                  


 人生のクライマックスを考えたことはあるだろうか。
 人生も黄金期とか、収穫期というものがあるかもしれない。
 人生、80年。昔の人より長生きできるようになった。

 古代インドでは人生を4つの時期に区切るという。
 「学生期」(がくしょうき)
 「家住期」(かじゅうき)
 「林住期」(りんじゅうき)
 「遊行期」(ゆぎょうき)

 日本では初老とか老年と呼び、なんとなく暗い。
 近づいてくる死を待てというのだろうか。

 吉田兼好は次のように言った。
「死は前よりもきたらず」
 つまり、死は、前方から徐々に近づいてくるのではなく、

「かねてうしろに迫れり」
 背後からぽんと肩をたたかれ、不意に訪れるものだ。


 インドでは、「学生期」で学び、
       「家住期」働き、家庭をつくり、子供を育てたあとに、
 
 人生のクライマックス「林住期」を迎える。

 人はみな生きるために働いている。
 でも、よく考えてみれば、生きることが目的で、働くことは手段であるはずだ。
 ところが、働き蜂の日本人は、働くことが目的となって、よりよく生きていない。

 家庭をつくり、子供を育て上げた後は、せめて好きな仕事をして生涯を終えたい。
 一度、リセットしてみたらどうであろうか。

 人生80年。
 もっと、長生きになるかもしれない。

 と、すると

 「学生期」(がくしょうき) 0〜24歳
 「家住期」(かじゅうき)  25〜49歳
 「林住期」(りんじゅうき) 50〜74歳
 「遊行期」(ゆぎょうき)  75〜90歳

 人は生きるためにもエネルギーが必要だが、
 死ぬときもエネルギーが必要なのかもしれない。
 だからといって、生涯をなすべきこともなく、雑事に追われながら死にたくはないものだ。


 自分が本当にやりたかったことは何なのか問いかける時期が、だいたいこの林住期(りんじゅうき)にさしかかる人だと言われている。

 それまでは、あまりの忙しさに考える余裕もなかったに違いない。
 林住期にさしかかった人は、生活の足しにならないようなことを真剣に考えてみるのも悪くない。

 林住期は、時間を取りもどす季節だ。
 林住期は、人生におけるジャンプであり、離陸の季節でもある。
 これまで、たくわえてきた体力、気力、経験、キャリア、能力、センスなど自分が磨いてきたものを土台にしてジャンプすることをお勧めする。

 林住期に生きる人間は、まず独りになることが必要だ。
 人脈、地脈を徐々に簡素化していこう。
 人生に必要なものは、じつは驚くほど少ない。

 1人の友と、
 1冊の本と、
 1つの思い出があれば、それでいい・・・と言った人もいる。

 自分を見つめるだけではいけない。
 林住期は相手をみつめ、全人間的にそれを理解し、受け入れる時期でもある。

 学生期のあいだは恋愛中心だ。
 家住期になれば夫婦の愛をはぐくむ。
 林住期は、恋人でも、夫でもない、一個の人間として相手と向き合うことも考えなければならない。ばらばらに暮らしても、二人の結びつきをさらに深めていくことも可能だ。



 五木寛之。昭和7年生まれ。今年で76歳。
 渋谷のカフェで隣の席から少女達の会話が五木の耳に入ってきた。

「えっ!45?ジジイじゃん」

 五木は思った。
 45歳で「ジジイ」なら、76歳は「オバケ」だろうか。
 世間では、老いるということが、不快な現象のように語られる。
 それに対する切ない反抗が「アンチエイジング」などという表現だ。


 団塊の世代が、国民の最大グループとして登場しようとしている。
 大量の「ジジイ」や「ジッちゃん」が出てくるのだ。

 「林住期」に属する団塊の世代こそが、この国の文化と精神の成就の担い手になる。
 しかし・・・と、五木は続ける。

 世の中への奉仕は尊い義務ではある。
 「家住期」において他人のために献身する義務は十分果たしてきたはずだ。
 こんどはまさに自己本来の人生に向き合うべきだ。

 1人の人間としてこの世に生まれて来たこと自体、実は奇跡的なことである。
 それほど希有で、貴重な機会を得た私たちは、その自己に対しての義務を果たさないといけないのだ。

 本来の自己を生かそう。
 自分をみつめよう。
 心が求める生き方をしよう。



 世の中には、今の仕事が死ぬほど好きな人がいる。
 定年制なんて冗談じゃないという人もいる。
 一生、学問を愛して書斎で暮らす人もいる。
 定年でやむをえず職を離れてもできることならずっとその周辺で生きたいという専門家もいる。

 しかし、一方では、なにかこれまでできなかったことを、やってみようと願う人もいる。

 五木氏の知り合いで芸大ピアノ科でクラッシックの大家と呼ばれる教授がいた。
 その教授は定年で退職したあと、新小岩のキャバレーでピアノを弾いてたそうだ。
 赤いシャツを着て、ハンチングをかぶり、くわえ煙草でジャズっぽい演奏を披露していたそうだ。店が閉まった後は、ホステスとバンドの連中と徹夜麻雀という暮らしぶりだったという。

 働いている人は誰もがやがて60歳を迎える。
 「林住期」である。
 好きでやっていた仕事なら、そのまま続けるのもよい。
 本当は好きとはいえなかった仕事なら、リセットして少年のころの夢を追うのもいいだろう。

 「林住期」という第三の人生を心ゆくまで生きるのが人間らしい生き方なのだから。



 日本人はまじめに考えすぎる。
 「林住期」に何かを始めるのは「必要」だから始めるのではない。
 始めるきっかけは、「必要」ではなく「興味」だ。


 年金問題で明らかになったようにわが国は、定年まで働いたからと言って、退職後が安泰というわけではない。それでもまだましかもしれない。現代は一つの会社に勤め続けることさえ困難な時代だ。

 だからこそ、充実した「林住期(りんじゅうき)」を過ごすために準備を怠らないようにしたいものだ。
 林住期をどう過ごすかは、「家住期(かじゅうき)」のときにこそ構想すべきだ。
 社会人すなわち家住期において、しっかり資金を蓄えておこう。
 子供達は20歳で自立させよう。それが無理なら、「学生期(がくしょうき)」が終わる25歳には家を出て行くように育てよう。


 この記事を書いていて、先頃、自転車旅行中になくなられた原野亀三郎さんのことを思い出した。彼は80歳になり、奥さんを残して自転車で日本一周の旅に出た。

 原野さんは社会に貢献し、市民として義務を果たし、そして一個人としての時間を持つため家を出た。まさに「林住期」を生きた人である。

【参考】
 2007.7.27毎スキ記事「生きることに感謝する」
http://blog.mag2.com/m/log/0000130996/108799155.html


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